アニメレビュー勉強会『映画 けいおん!』参加原稿を公開します

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 アニメ評論家・藤津亮太氏の主催されるアニメレビュー勉強会が先日開催されました。弊社・久保内はゲスト講師として参加させていただきました。

 その際に執筆したレビュー参加用原稿を公開いたします。

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1 想定媒体オトナアニメ2012年鑑
2000wきっかり。
■けいおん! の、めぐる季節と成長の軌跡

 私立桜が丘女子高校軽音楽部を舞台に4人の生徒がバンドを組み、軽音部を作る『けいおん!』。タイトルが軽音部! ではなくひらがなになっているとおり、バンド一直線! のスポ根ノリから一線を画した、お茶とおしゃべりのゆるやかな作風が特徴だ。アニメ1シーズンは、そんな主人公・平沢唯たち部員の生活を春から二年間を追っていくスタイルで放送。流れるゆったりとした時間の雰囲気も好評でブームを引き起こした。

 途中から彼女たちの演奏を聞いて入部した後輩の中野梓も「テスト勉強に没頭したら、ギターのコードを全部忘れちゃう」唯のような先輩たちのゆるゆるした部活動に呆れながらも、すっかりペースに馴染んでいる。唯たちは三年生に進級する2シーズン目も、受験を目前に控えているくせに相変わらずのメンバーたちを描いている。しかし、来年は、ただ一人二年生の梓だけが残ってしまう予感が複雑な心の模様になって影を落とす。

 大人気のまま幕を閉じたアニメ版を引き継いで公開された『映画 けいおん!』では、卒業式を一週間後にひかえた軽音部の三年生組が二年生の梓も連れて、ロックとアフタヌーンティーの本場・イギリスのロンドンに卒業旅行に行く模様が描かれている。卒業式のクライマックスである2シーズン目の24話につながるストーリーになる本作。

 普段の学校からロンドンに移した舞台を描く精緻な美術はもちろん、英語に慣れず右往左往するキャラクターたちもいきいきと愛らしく描かれており、映画ならではの作りこみの確かさはさすが京都アニメーションだ。

 ところで、アニメの華とも言える映画は大画面を生かしたアクションシーンや大きなドラマが求められがちだ。しかし『けいおん!』は、世界の黒幕と戦ったりするような派手なお話ではなく、音楽観の対立などで人間のぶつかり合いのドラマを描きもしないストーリーだ。この核を崩さずに映画にするのは、じつはなかなか困難なこと。

 映画の冒頭では、遅れて部室にきた梓に、音楽観のぶつかり合いで存続危機に陥る軽音部のメンバーたちというお芝居で悪ふざけをするメンバーたちが描かれるのも、普通の映画に求められがちな仕掛けを逆手にとったシーンといえるだろう。ほかにも、舞台をイギリスに移したのも映画ならではのし掛けだ。その後もつぎつぎに映画ならではのサービスをしながら流されない自制のきいたシーンが連続する。

 部員たちは、あくまで観光旅行の範疇を超えることはなく、ささやかなエピソードを積み上げていく。ここで、効果的に使われるモチーフがある。唯たち部員だけでなく、さまざまな舞台設定が回転し続ける。

 たとえば、イギリス入国時にはトランクがコンベアからあらかじめ除けられて、ベースの澪が狼狽する。突然ライブをするはめになった舞台はイギリスの回転寿司屋だが、これも食べられない。この経験から大観覧車に乗ることを怖がる澪だが、実際に乗り込むと大はしゃぎ。「乗ったらぐるぐる回るの見れないからな」とドラムの律に言われてしまう。梓のために、三年生がひとつの部屋に集まり会議しているシーンでは、梓を探す唯と唯を探す梓で、客室間をぐるぐる周り、最終的に唯が梓を発見するコメディシーンが挟まれる。

 観客を楽しませるコミカルなシーンに潜ませて作品の随所に頻繁に埋め込まれた回転のモチーフは、唯たちがすごした高校での三年間を思い起こさせる。ずっと続くと思っていた循環する時間の終焉を、言葉に表さずとも予感していた彼女たちは、すでに回転の中にもどれず、過ぎ去った時間を懐かしみ、そしてその時間の中から宝物を見つけ出すのだ。イギリスという彼女たちにとっての夢の異世界は、そのまま高校時代の特別な時間に重ね合わされる。

 三年生の彼女たちが卒業式を迎え、学校が「いるべき幸せな循環する時間」ではなくなったとき、今まで閉ざされていた部室の隣の屋上へと続く扉が開いているのを発見する。屋上に出た彼女たちは、梓こそ過ごした季節と軌跡の中で見つけた天使だと気づくのだ。そこから緩やかに物語は本編2シーズンのクライマックスに寄り添い、新しい空に向かって彼女たちは自分たちのペースで飛翔しはじめる。

 『けいおん!』の登場人物たちと、それをTVアニメから見守った観客は、もう高校時代を過ぎ去ったものとして懐かしむことしかできないことを知っている。映画という大舞台を与えられた彼女たちは、ぱっと見ささやかで、たわいないやり取りの中でゆるやかに確実に成長し卒業する。安易なカタルシスを排しながら、愛すべき箱庭だった、青春のある季節を切り取った見事な成長物語だ。

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